近年、大腸がんの発生と腸内細菌との関係についての研究が進められており、そのなかでも注目されているのが「コリバクチン」という物質です。コリバクチンは、一部の腸内細菌が産生する毒素で、DNAを傷つける作用があることが知られています。
2026年8月には、日本人の大腸がん患者を対象とした全ゲノム解析において、対象者の44.8%にコリバクチンへの曝露と関連する特徴的な遺伝子変異の痕跡が認められたという研究結果が発表されました。さらに、これらの変異が大腸がんの発生に関わる遺伝子にも認められたことから、コリバクチンが一部の大腸がんの発生初期から関与している可能性が示唆されています。
ただし現時点では、コリバクチン産生菌を保有している人の将来的な大腸がん発症リスクがどの程度あるのか、また、産生菌を除去すれば大腸がんの発症を予防できるのかについては明らかになっていません。
この記事では、コリバクチンとは何か、最新の研究でどのようなことがわかっているのか、さらに日本でおこなわれているコリバクチン産生菌の検査について解説していきます。
コリバクチンとは
まずは、コリバクチンがどのような物質なのか、大腸がんとどのような関係があると考えられているのかをみていきましょう。
腸内細菌が産生する「毒素」
コリバクチンは、一部の腸内細菌が生み出すとされている「毒素」です。大腸菌など、pks遺伝子群を持つ一部の細菌がコリバクチンを生み出すことが知られています。
このコリバクチンはDNAに損傷を与える作用を持っており、DNAの二本鎖切断などを引き起こすことがあります。このようなDNA損傷が蓄積することで、細胞の遺伝子に変化が生じ、大腸がんの発生につながる可能性があると考えられています。
ただし、腸内にコリバクチン産生菌が存在していることと、大腸がんの発症の因果関係については明らかになっていません。大腸がんには、遺伝的な要因や年齢、食生活、運動習慣、飲酒、喫煙など、さまざまな要因が関係しています。そのため、コリバクチン産生菌の存在だけで大腸がんが発症するリスクを判断することはできないのです。
コリバクチンと大腸がんの関係
コリバクチンと大腸がんの関係が注目されている理由のひとつとして、コリバクチンによって生じたDNA損傷が、特徴的な「変異シグネチャー」としてゲノムに残ることが挙げられます。変異シグネチャーとは、DNAに生じた遺伝子変異の特徴的なパターンのことで、コリバクチンへの曝露によって生じる変異には、SBS88やID18と呼ばれる特徴的なパターンがあることが知られています。
2026年8月10日に発表された研究では、日本人の大腸がん患者を対象に全ゲノム解析などがおこなわれました。その結果、解析対象となった非高頻度変異型の大腸がん183例のうち82例、つまり44.8%に、コリバクチンへの曝露と関連するSBS88またはID18の変異シグネチャーが確認されました。さらに、コリバクチン関連の変異は、APCやBRAF、TP53など、大腸がんの発生に関係する遺伝子にも認められています。
これらの結果から、コリバクチンによるDNA損傷が、単に大腸がんが発生した後に生じる変化ではなく、一部の大腸がんの発生初期から関与している可能性が示されています。
ただし、この研究で対象者の44.8%に認められたのは、あくまで「コリバクチンへの曝露と関連する遺伝子変異の痕跡」です。「44.8%の人がコリバクチン産生菌を持っている」という意味ではない点に注意してください。
若年者の大腸がんとの関連
今回の研究では、コリバクチン関連の変異シグネチャーが、若い年代で発症した大腸がんに多く認められることも明らかになりました。特に40歳未満で発症した大腸がんにおいては、コリバクチン関連の変異シグネチャーの寄与が高いことがわかっており、若年発症大腸がんとの関連が示唆されています。
ただし、ここでも注意が必要です。この結果は、大腸がん患者の腫瘍を解析した研究から得られたものです。そのため、「若い人がコリバクチン産生菌を持っていると大腸がんになる」という意味ではありません。今後、コリバクチンへの曝露がどのように大腸がんの発生につながるのか、また、どのような場合にその影響が大きくなるのかについて、さらに研究が進むことが期待されています。
コリバクチン検査とは
ここでは、2023年頃から日本で提供されるようになった「コリバクチン検査」について解説していきます。
コリバクチン産生菌の存在を調べる検査
コリバクチン検査は、便を検体としてコリバクチンを産生する腸内細菌の存在を調べる検査です。便を採取して検査するため、採血や大腸内視鏡検査のように身体に大きな負担をかけることなく検体を採取できることが特徴です。
ここで重要なのは、コリバクチン産生菌の存在を調べる検査と、大腸がんそのものを診断する検査はまったく別のものだということです。また、現時点では、コリバクチン産生菌の存在を調べることで、将来の大腸がん発症リスクを具体的な確率として判定できるわけではありません。
そのため、検査結果だけから「大腸がんになりやすい」「大腸がんにはならない」と判断することはできないことを理解しておきましょう。
コリバクチン検査の流れ
コリバクチン検査は、自宅で採取した便をクリニックなどの医療機関に提出し、専門の検査機関がその検体を詳しく調べるという方法が一般的です。
まず、専用の採便容器などを用いて便を採取します。その後、指定された方法で検体を提出し、医療機関の外来や自宅への郵送、電子メールなどで検査結果を受け取ります。
具体的な採便方法や提出方法、結果が出るまでの期間は、コリバクチン検査を提供している医療機関や検査機関によって異なる場合があります。検査を受ける際には、医療機関から案内される検査手順をよく確認してください。
コリバクチン検査を受ける際に知っておきたいこと
現時点で、コリバクチン検査は「大腸がんのリスクを知るための検査」と捉えるのではなく、あくまでもコリバクチンを産生する腸内細菌の存在について調べる検査だと考えることが大切です。
ここでは、コリバクチン検査を検討する際、ぜひ知っておいていただきたいことについて解説していきます。
コリバクチン検査では大腸がんを診断できない
コリバクチン産生菌が検出されたとしても、それだけで大腸がんの有無やリスクについて診断ができるわけではありません。反対に、コリバクチン産生菌が検出されなかった人であっても、大腸がんの可能性はゼロではないのです。
大腸がんにはさまざまな発症要因があるため、コリバクチン検査の結果だけで大腸がんリスクを判断しないようにしましょう。
大腸がん検診の代わりにはならない
日本では、40歳以上を対象として、年1回の便潜血検査による大腸がん検診が推奨されています。便潜血検査で陽性となった場合には、便潜血検査を繰り返すのではなく、医師の指示に従って精密検査を受けることが重要です。
大腸がんの診断や早期発見を目的に確立された検査として、便潜血検査や大腸内視鏡検査などがあります。コリバクチン検査を受けたことだけを理由に、大腸がん検診や医療機関での検査を省略することは避け、定期的なチェックを心がけてください。
症状がある場合は医師に相談する
血便、腹痛、便通の変化など、大腸にかかわる症状がみられる場合は、コリバクチン検査の結果にかかわらず医療機関を受診しましょう。コリバクチン産生菌の存在を調べることと、現在の大腸の状態を確認することは目的が違うと理解しておきましょう。
コリバクチン検査結果の考え方
前述のとおり、コリバクチン検査の結果だけで大腸がんの発症や有無を判断することはできません。ここからは、陽性・陰性それぞれの結果をどのように考えればよいのか解説していきます。
コリバクチン検査と従来の大腸がん検査と違い
大腸の状態を調べる検査には、コリバクチン検査以外にも、大腸がん検診や人間ドックなどでおこなわれている便潜血検査や大腸内視鏡検査などがあります。
これらの検査は、以下のように調べる対象がそれぞれ異なります。
| 検査 | 調べられること | 特徴 |
|---|
| コリバクチン検査 | コリバクチン産生菌の有無 | コリバクチンを産生する腸内細菌に 着目している |
| 便潜血検査 | 便に含まれる血液 | 大腸がん検診として広く実施されている |
| 大腸内視鏡検査 | 大腸内部の状態 | ポリープやがんなどの病変を直接観察することができる |
この表からもわかるように、コリバクチン検査は既存の大腸がん検査に置き換わるものではありせん。目的に応じて受けるべき適切な検査が異なるため、医師の判断に従うようにしましょう。
コリバクチンの研究に期待されること
今後、コリバクチンと大腸がんとの関係がさらに明らかになることで、新たな予防法の開発につながる可能性があります。
ここでは、コリバクチンの研究に期待されることを紹介します。
コリバクチン産生菌の感染経路の解明
冒頭でも紹介したように、2026年8月の研究発表では、日本人の大腸がんにコリバクチン関連の変異が認められることが示されました。一方で、なぜ日本人にはコリバクチンが関与すると考えられる大腸がんが多いのか、また、コリバクチンを産生する細菌がどのような経路で腸内に定着するのかなど、まだ明らかになっていない点もあります。
なかでもコリバクチン産生菌の感染経路については、今後の研究で解明されることにより、大腸がんの予防につながる新たなアプローチが生まれると考えられています。
除菌による大腸がん予防の可能性
今回の研究成果を受け、コリバクチン産生菌の感染経路の制御や除菌により、大腸がんの予防につながる可能性があると期待されています。
現時点では、コリバクチン産生菌を除去することで大腸がんを予防できるとは確認されていませんが、今後の研究の進展に注目が集まっています。
大腸がんを予防するためにできること
コリバクチン検査を受けることが、直接的に大腸がんの予防につながるわけではありません。大腸の健康を維持していくためには、生活習慣を整えることや、定期的に検診を受けることも大切です。
ここでは、大腸がんを予防するために日常生活のなかでできることを紹介していきます。
バランスのよい食生活を心がける
大腸がんの予防を考えるうえで、日々の食生活を見直すことは大きなポイントのひとつとなります。脂質や糖質の高い食事は控え、野菜や果物、食物繊維を含む食品などを積極的に摂取してバランスのよい食生活を心がけましょう。
適度な運動を習慣にする
健康を維持していくためには、適度に運動をすることも必要です。ウォーキングやストレッチ、ヨガなど、無理なく続けられる運動を日常生活に取り入れ、できる範囲で身体を動かすようにしてください。
飲酒・喫煙などの生活習慣を見直す
飲酒や喫煙は、大腸がんだけではなく、さまざまながんのリスクとの関連が知られています。
大腸がんの予防や将来の健康のためにも、飲酒量の見直しや禁煙に取り組むことをおすすめします。
定期的に大腸がん検診を受ける
現在日本では、40歳以上の方を対象に年1回の便潜血検査による大腸がん検診が推奨されています。便潜血検査で陽性となった場合は、便潜血検査を再度受けるのではなく、医師の指示に従い、大腸内視鏡検査をはじめとした精密検査を受けるようにしましょう。
コリバクチン検査についてよくある質問
最後に、コリバクチン検査についてよくある質問にお答えしていきます。
コリバクチン検査が陽性の場合はどうすればいい?
コリバクチン検査で産生菌が確認されたとしても、それだけで大腸がんであると診断することはできません。また、現時点では、コリバクチン産生菌の存在から将来の大腸がん発症リスクを具体的に判定できるわけでもありません。検査結果について気になることがある場合は、医療機関に相談するようにしましょう。
コリバクチンを産生する菌は除去できますか?
最新の研究結果からも、コリバクチン産生菌を除去することで大腸がんを予防できることは確認されていません。将来的にコリバクチン産生菌の感染経路を制御したり、除菌したりすることで大腸がんを予防できる可能性が期待されていますが、実際に予防効果があるかどうかについては、さらなる研究の進展が必要です。
コリバクチン検査は何歳から受けられますか?
コリバクチン検査を受けられる年齢や推奨される対象者は、検査を実施する医療機関や検査機関によって異なることがあります。検査を希望する場合は、事前に医療機関で確認するようにしましょう。
まとめ
今回の記事では、コリバクチンと大腸がんの関係や、コリバクチン産生菌の存在を調べる「コリバクチン検査」について解説してきました。
コリバクチンは、一部の腸内細菌が産生する毒素で、DNAを損傷させる作用があることが知られています。2026年8月に発表された最新の研究では、日本人の大腸がん患者を対象とした全ゲノム解析により、大腸がん183例のうち44.8%でコリバクチンへの曝露と関連する特徴的な変異シグネチャーが確認されました。さらに、これらの変異は大腸がんの発生に関わる遺伝子にも認められました。
この研究の結果からは、コリバクチンが一部の大腸がんの発生初期から関与している可能性が示唆されています。ただし、コリバクチン産生菌を持っている人が将来的に大腸がんを発症するリスクや、除菌による大腸がん予防の可能性については明らかになっていないため、今後の研究のさらなる進展に大きく期待されています。