PSMA-PET検査とは?前立腺がんを見つけられるって本当?費用や保険適用についても解説
前立腺がん検査のなかでも、精度の高さで注目を集めている検査方法が「PSMA-PET検査」です。PSMA-PET検査は、日本では2024年1月頃から臨床に導入されている新しい検査方法で、前立腺がんの検出率が高いとされています。
日本人男性は50代から罹患者が急増するという傾向が明らかになっており、「前立腺がんを発見できるなら受けたい」「検査費用や保険が適用されるかが気になる」など、PSMA-PET検査に関心をもたれている方も多いのではないでしょうか。
今回の記事では、PSMA-PET検査とは何か、前立腺がんを本当に見つけられるのかを説明するとともに、検査にかかる費用や保険適用の有無についても解説していきます。
PSMA-PET検査とは

PSMA-PET検査とは、PSMA(前立腺特異的膜抗原)を標的としておこなうPET検査です。男性特有のがんである「前立腺がん」の検出や、がんの再発の早期発見を目的としています。
PET(陽電子放出断層撮影)検査とは、がん細胞と結合しやすい性質をもった放射性薬剤を注射して、専用の装置で撮影する検査方法です。使用される装置には、PET専用装置のほかに、PETとCTの機能が1台の装置に搭載されたPET-CTがありますが、現在はより高感度の結果が得られるPET-CTが主流となっています。
これらの装置で撮影した画像を調べることにより、注射した放射性物質の分布がわかり、放射性物質が集まっている場所にがん細胞があると診断できます。
PSMA-PET検査で標的とするPSMAは、前立腺細胞の表面に存在するタンパク質で、前立腺のがん細胞に強く発現することが知られています。PSMA-PET検査はがん細胞そのものではなく、薬剤を投与することでPSMAに結合した放射性物質を標的として前立腺がんを検出する点が特徴です。
FDG-PET検査や骨シンチグラフィとの違い
前立腺がんの検査方法には、そのほかにもFDG-PET検査や骨シンチグラフィがあります。PSMA-PET検査とこれらの検査方法との大きな違いは、「前立腺がんに特化しているか」「より精度の高い検出ができるか」の2点です。
前立腺がんに特化しているか
FDG-PET検査とは、検査薬にFDG(フルオロデオキシグルコース)という放射性物質を使用する検査方法です。FDGはブドウ糖によく似た物質で、ブドウ糖と同じように細胞に取り込まれる性質があります。特に、がん細胞は通常よりも多くのブドウ糖を消費するため、多くのFDGが集まっている部分にはがん細胞が存在しているということがわかるのです。
しかし、前立腺がんのがん細胞はあまりブドウ糖を消費しない性質があり、FDG-PET検査では検出しづらい傾向があります。また、FDGが尿中に排泄される物質であるという点も、尿路系に属する前立腺のがんにFDG-PET検査が向かない理由のひとつです。
対してPSMA-PET検査は、前立腺の特異的なタンパク質であるPSMAを標的としていることが特徴です。使用する検査薬はPSMAと結合しやすい性質があるため、PSMAが多く発現している前立腺がんの発見に役立ちます。
より精度の高い検出ができるか
PSMA-PET検査と骨シンチグラフィとの違いは、より精度の高い検出ができるかどうかという点です。
骨シンチグラフィは骨に転移したがんを調べる検査で、骨の代謝が活発になっている部位に集まりやすい検査薬(放射性物質)を使用します。がんが転移した骨は代謝が活発になるため、放射性物質が多く集まっている部位を調べれば骨転移しているかどうかがわかるという仕組みです。
ただし、骨シンチグラフィは骨転移したがんの検出に特化した検査方法ですが、必ずしも高い精度で検出できるわけではありません。骨の代謝が活発になる骨折やがん以外の病気にも反応する場合があるほか、小さいがんの検出が難しいという課題もあります。
一方でPSMA-PET検査は、前立腺がんの骨転移を高い精度で検出することが可能です。骨シンチグラフィで骨転移が陰性だった患者さんにPSMA-PET検査をおこなったところ、骨転移が検出されたというケースもあります。
PSMAに結合する薬剤を用いるPSMA-PET検査は、FDG-PET検査や骨シンチグラフィと比較すると前立腺がんの検出においてより高精度であるといえるでしょう。
PSMA-PET検査で前立腺がんを見つけられる?

PSMA-PET検査は、前立腺がんに特化していて検出率も高いため、検査を受けることによる前立腺がんの早期発見に期待できます。
PSMA-PET検査が前立腺がんの高い検出率を実現している理由として、検査の標的となるPSMAは前立腺がんが発生すると増加する性質があることが挙げられます。PSMAは健常者の前立腺の細胞表面にも存在していますが、がん細胞が発生すると通常の100倍~1,000倍も多く発現するといわれています。
PSMA-PET検査では、検査薬のガリウム68(68Ga-PSMA)を静脈注射で投与して、PSMAに結合させることでがん細胞に目印を付けます。ガリウム68で標識されたPSMAは微量の放射線を出すため、PETやPET-CTで撮像すればPSMAが多い部位を画像化することができ、前立腺がんになっているかどうかがわかります。
また、PSMA-PET検査は前立腺がんの範囲や骨転移も検出できるため、画像をもとにした病期判定も可能で、前立腺がんの病期に応じた治療方法を選択するときに有用な検査方法です。ほかにも、前立腺がん治療後にPSA値が上昇した患者さんについて、高い感度で生化学的再発を検出できるとされています。
さらにPSMA-PET検査には、CT・MRIや骨シンチグラフィでは検出の難しい小さな病変や転移も発見できるという特徴もあります。前立腺がんは進行が緩やかながんであるため、病変が小さいうちに発見・治療をすることで根治が期待できるでしょう。
PSMA-PET検査の精度や有用性を示す研究データ
PSMA-PET検査は比較的新しい検査方法ですが、前立腺がんの早期発見・治療に役立つ検査方法として注目されており、精度の高さを示す研究結果も存在します。
アメリカのカリフォルニア大学では、前立腺摘除後に再発した患者を対象にPSMA-PET検査とFDG-PET検査の比較研究をおこないました。研究の結果、前立腺がんの生化学的再発の検出率は、PSMA-PET検査が56%、FDG-PET検査が26%とPSMA-PETのほうが有意で高い検出率であることを示しています。
参考:メディカルオンライン「前立腺がんPSA再発時のPET-CT、FDGよりPSMAが高精度」
また、前立腺がんの治療を受けたものの再発してしまった患者を対象として、PSMA-PET検査とMRIの精度を比較した研究もあります。この研究では前立腺がんの遠隔転移とリンパ節転移の検出において、PSMA-PET検査はMRIよりも検出率が高いというデータが示されました。
これらの研究結果からも、前立腺がんの早期発見や病期判定のための検査方法としてPSMA-PET検査が優れているとわかります。
PSMA-PET検査を受けるときの流れ

PSMA-PET検査を受ける場合、まずは検査を実施している医療機関を探すことから始める必要があります。PSMA-PET検査は特殊な薬剤・装置を使用しており、検査を受けられる医療機関が限られているためです。
医療機関がPSMA-PET検査を提供しているかどうかを調べるには、インターネットで検査を実施している医療機関を検索し、その医療機関のホームページを確認したり、電話で問い合わせしたりする方法があります。また、かかりつけ医(泌尿器科医など)のいる方は検査を希望する旨を伝え、適切な医療機関を紹介してもらうことがいちばんの近道だと考えられます。
ここでは、PSMA-PET検査を実施している医療機関で検査受診するときの流れを紹介します。
- PSMA-PET検査の予約
PSMA-PET検査で使用する薬剤(ガリウム68)は使用期限が短いため、予約なしで気軽に受けることはできません。医療機関に検査を予約したい旨と希望日を伝えて、検査日時を決めましょう。 - 来院・問診
検査当日は、検査受付のあとに問診がおこなわれます。問診時にはあわせて検査の説明もあるので、検査内容について不明点や不安があれば医師に質問しましょう。 - 身長・体重測定
問診後は身長と体重を測定します。測定は、検査に使用する薬剤の適切な投与量を決定するためにおこなわれます。 - 検査着への更衣
更衣室に移動して検査着に着替えます。身につけている金属類の取り外しなどの指示があれば従ってください。 - 検査薬の投与
PSMA-PETの撮像前に排尿が必要なため、水分を摂取します。その後、検査薬(68Ga-PSMA)を静脈注射で投与します。 - 安静待機
薬剤が病変部位に集まるまで、待機室で1時間程度を安静待機します。 - PETあるいはPET-CT装置で撮像
撮像前に、尿路系などに溜まった薬剤を排泄するために排尿します。その後、検査台の上で横になって撮像します。撮像の間は身体を動かさないようにしてください。場合によっては時間を空けて追加で撮像することもあります。 - 私服への更衣・会計
検査後は更衣室で服を着替えて、窓口で会計をします。
以上でPSMA-PET検査は終了です。
PSMA-PET検査にかかる時間は2~3時間程度です。余裕をもって行動できるよう、スケジュールは時間を長めに見積もっておくとよいでしょう。
また、検査結果がでるまでの日数は医療機関によって異なりますが、一般的に1~3週間程度とされています。
PSMA-PET検査に副作用はある?
PSMA-PET検査の副作用としては、吐き気や下痢、疲労感、めまいなどが報告されています。しかし、副作用の発現率は高くはなく、発現しても重篤な症状になるおそれはほとんどありません。
また、PSMA-PET検査で使用するガリウム68は、放射性同位元素であるものの放射線被ばくによる副作用の心配はほとんどありません。ガリウム68は半減期が約70分と短く、薬剤投与をしても、自然界から受ける1年間の被ばく線量とほぼ同等の被ばくで済みます。検査薬の成分は尿路系から体外に排出されて、体内には残留しません。
なお、PSMA-PET検査は年齢を問わず受けることができますが、以下のような方は検査を受けられない可能性があります。
- 一週間以内にバリウム検査を受けた
- 体内埋め込み型の神経刺激装置を装着している
ほかにも、ICD(除細動器)・ILR(埋め込み型のループレコーダー)・ICM(埋め込み型の心臓モニター)など、体内埋め込み型の電子機器を装着している場合は検査に影響がでることが考えられます。PSMA-PET検査を受けるときはかかりつけ医に相談するとともに、検査を申し込む医療機関にもあらかじめ伝えておきましょう。
PSMA-PET検査にかかる費用はいくら?

PSMA-PET検査にかかる費用は医療機関ごとに異なり、2025年9月現在の費用相場は25万~30万円です。ただし、使用する薬剤を海外から輸入している場合は、その時点の物価・為替に応じて費用が変動する可能性もあります。
PSMA-PET検査で使用する薬剤は高価であり、使用期限も短いため検査予約のキャンセル規定を定めているケースがあることに注意してください。「キャンセルは検査前日まで」など、キャンセル可能なタイミングが決まっていたり、キャンセルのタイミングによって返金額が変わったりします。キャンセル規定の内容は、事前問い合わせのときによく確認しておきましょう。
医療機関によっては、事前にPSA検査やMRI前立腺がん検診を実施することがあります。事前の検査・検診をおこなう理由は、前立腺の異常を詳細に調べることでPSMA-PET検査の必要性を確認するとともに、前立腺がん検出の精度を向上させるためです。事前にPSA検査やMRI前立腺がん検診をおこなう場合は、PSMA-PET検査の費用に追加して検査費用がかかります。
ほかにも、利用する医療機関が遠方にあれば交通費や宿泊費がかかるケースもあるでしょう。
「検査費用がいくらかかるか」「追加検査が発生するか」や「交通費・宿泊費がかかるか」など、詳細を把握するためには医療機関に事前問い合わせをすることが重要です。
PSMA-PET検査は保険適用されない?
2025年9月現在、PSMA-PET検査は保険適用されません。検査を受ける場合は自由診療扱いになり、検査費用は全額自己負担となります。
PSMA-PET検査にかかる費用は高額であるため、検査の必要性をよく調べたうえで検査を受けるべきかどうかを検討しましょう。PSMA-PET検査の対象疾患である前立腺がんは、男性特有のがんであるとともに、50歳を超えると罹患率が上昇します。前立腺がんを早期発見・予防したい中年男性の方や、発症している前立腺がんの病期を知りたい方、がんの再発が気になる方にPSMA-PET検査は適応となります。
また、PSMA-PET検査を実施する医療機関の信頼性や立地の利便性も重要です。以下のポイントを参考に、医療機関が信頼できるか、検査当日に通院しやすいかを判断するとよいでしょう。
- PSMA-PET検査を提供しているか
- がん検診やPET検査の豊富な実績があるか
- 検査に必要な機器を導入しているか
- 担当する医師が前立腺がんの検査に精通しているか
- 医療機関の所在地がアクセスしやすい場所にあるか
自分にとって最適な医療機関を選ぶことで、PSMA-PET検査を安心して受けられ、前立腺がんを高い精度で診断してもらえます。
まとめ

PSMA-PET検査とは、PSMAというタンパク質を目印にして前立腺がんの検出をおこなう検査方法です。検査標的であるPSMAは前立腺がんの細胞表面に特異的に発現する性質があるため、従来の検査方法よりも高精度で前立腺がんを検出することができます。
PSMA-PET検査の費用相場は25~30万円で、保険適用はされません。検査を受けたい方は、本記事で紹介した検査の流れや医療機関の選び方を参考に、信頼できる医療機関を探してください。
