鈴木健司
KENJI SUZUKI

順天堂大学医学部 呼吸器外科学 教授

肺がんは検診のX線検査ではほぼ見つかりません。
非喫煙者の患者さんも増えています。
人間ドックで定期的にCT検査を受けてください。

目次

    がん死亡数が最も多い肺がん。初期には自覚症状がほとんどない

    肺がんは、現在、日本人のがん死亡数が最も多いがんです。初期には自覚症状はほとんどなく、咳、痰や血痰、胸の痛み、息苦しさなど一般的な呼吸器の病気と同様の症状が長引き、そこで受診して発見されることがあります。ただ、発生部位によっては進行するまで症状が出ないケースも少なくありません。

    肺がんといえば喫煙が原因というイメージがありますよね。それはもちろんそうなのですが、最近、非喫煙者、特に女性や若い人たちが肺がんになる例が増加しています。

    喫煙と関係のない肺がん、なかでも腺がんは女性や若い人に増えている

    肺がんには種類があり、病理検査で調べる細胞の性質によって、大きく小細胞肺がん、非小細胞肺がんに分けられます。肺がん患者さんの約8割が非小細胞肺がんです。非小細胞肺がんはさらに扁平上皮がん、腺がん、大細胞がんに分けられます。

    喫煙が原因となるのは主に扁平上皮がんです。タバコに含まれる発がん物質が正常細胞の遺伝子を傷つけて、がん化させるのです。ですから、タバコを吸わなければ扁平上皮がんを予防でき、喫煙者も禁煙すれば、がんの発生や増悪をある程度抑えられます。ところが、腺がんは原因が不明で、予防できません。この腺がんが女性や若い人に増えています。喫煙していない人にも肺がんは無関係ではないのです。

    公的検診だけで見つかるケースは少ない

    公的検診では、40歳以上に胸部X線検査と主に喫煙者の喀痰細胞診が実施されています。ところが、実際には胸部X線検査で肺がんが見つかるケースは少なく、また見つかった場合には進行している場合が多いのです。また、前述のように若い人でも肺がんになりますから、肺がんの早期発見に公的検診だけを頼るのには無理があります。

    ですから、人間ドックや健康診断で一般的な胸部CT検査を受けてください。X線をらせん状に連続的に照射して撮影するヘリカルCT検査が受けられるところもあります。いずれにしても、胸部CT検査で異常が見つかれば、肺がん、あるいは呼吸器を専門とする病院でさらに高精細の胸部CT検査を受ければよいと思います。

    年代別・リスク別の検診頻度へのアドバイス

    30代で人間ドックや健康診断で胸部CT検査を受けておくと安心です。40代以降の人は、非喫煙者は3年に1回くらい、喫煙者は毎年胸部CT検査を受けてください。受動喫煙の機会が多い方、血縁者に肺がんなど呼吸器の病気の経験者がいる方は肺がんのリスクが高まるので、やはり年1回くらいのペースでチェックすることをお勧めします。

    肺がんの画像検査は特に読影が重要です。検査の精度は上がっていますが、それをどう解釈するかによって、治療方針が大きく異なるからです。人間ドックなどで異常が見つかったら、肺がん治療を得意とする病院で詳しい検査を受けることが大切です。

    <連携医師紹介>
    多様化する肺がん治療。身体への負担がより少ない手術を可能にすることで、患者さんに手術という選択肢を提供したい

    ■医師になったのは、大学受験の模試で隣の席の人がきっかけ

    もともと京都大学理学部で環境やエネルギーについて学び、社会に役立てられればと考えていました。高校3年生時には京大しか受けず、自宅浪人することに。模擬試験で隣の席の人が防衛医科大学校のパンフレットを持っていて、「受験料も学費も無料」と話していたのを聞き、受けてみようと思ったのがきっかけです。合格したものの、医師の家系でもなく、医師は尊い仕事で自分には遠いと感じていただけに、医学部の勉強についていけるのか、自分に医師が務まるのかと入学前に緊張したことを覚えています。2年生のときの解剖実習で「体にメスを入れる行為は尋常ではない。間違って切ってしまったらどうなるんだろう。これは勉強しなければ」と腹が据わりました。

    進路を決めるとき、倒れている患者さんを1人でも多く救う医師になりたいと考え、呼吸器外科と心臓外科で迷い、結局、呼吸器外科を選びました。当時の教授の尾形利郎先生が夜中に一人で自分が手術した患者さんの様子を見に行かれることが多く、それは「自分で見たこと以外は信用するな」という教えでした。現場で実際に見る(診る)、経験することの大切さを学びました。

    その後、米国海軍病院で潜水医学を学び、訓練を受けました。帰国後は防衛医大の関連病院に勤務しましたが、自衛隊員とそのご家族のための病院であり、肺がんの手術をする機会はほとんどありませんでした。それで、面識もなかった国立がんセンター(現・国立がん研究センター)の呼吸器外科の土屋了介先生に直談判して、職を得ました。以降、これまで何千例もの呼吸器の手術を経験することになりました。

    持病のある患者さんや進行がんの患者さんに、より負担の少ない手術を実施

    順天堂医院に移ってからは医局内でチーム一丸となってスクラムを組み、開業医の先生方の信頼を得ることで、多くの患者さんの紹介をいただき、多くの手術を行う体制を作ってきました。現在は、国内でも有数の手術件数を行うチームとなりました。
    日々多くの患者さんの治療にあたっていますが、特に高齢の肺がん患者さんはほかの持病を持っている方も多く、(肺がんの標準治療をまとめた)診療ガイドライン通りに治療できないこともしばしばあります。常に、手術時間を短くし、出血量を減らし、患者さんの負担を減らす手術を行うよう努力しています。

    肺がんの治療は薬物療法の進歩もあって、非常に多様化しています。肺がんの種類やステージ、年齢などが同じ患者さんでも、治療の選択肢は複数あります。「もっと早く手術しておけばよかった」という思いを抱く患者さんを少しでも減らしたいと考え、日々の診療やセカンドオピニオンにあたっています。

    PROFILE

    1990年防衛医科大学校卒業後、防衛医科大学校臨床研修医を経て渡米、1993年US Navy潜水医学課程修了。1995年国立がんセンター東病院非常勤医師。1997年同がん専門修練医。1999年国立がんセンター中央病院呼吸器外科医員。2007年同呼吸器外科医長。2008年に順天堂大学医学部呼吸器外科教授に就任。順天堂大学医学部附属順天堂医院 院長補佐。日本呼吸器外科学会賞、癌学会奨励賞、日本肺癌学会 篠井・河合賞など受賞多数。小学2年生から剣道を続け、剣道5段。

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