遺伝しやすいがんの種類や検査方法を解説
「両親ががんだと遺伝する可能性はある?」
「がんの遺伝子検査が気になる」
両親や親戚でがんに罹患する人が多いことから、「将来自分もがんになるかもしれない」と不安を感じている方も多いことでしょう。
実際のところ、がんは遺伝するのでしょうか。また、自分がかかりやすいがんを知る方法はあるのでしょうか。
この記事では、がんと遺伝子の関係や、遺伝しやすいがんの種類、遺伝性のがんを調べる検査方法などについて解説しています。
がんに対する正しい知識を持ち、予防や早期発見のためにお役立てください。
がんの原因
がん治療については数多くの研究がおこなわれ、さまざまな治療法が確立されてきています。それでも、「がんは治らない病気」というイメージがまだまだ根強く、多くの方ががんの予防に関心を寄せています。
まずは、がんの原因について解説していきましょう。
環境要因と遺伝要因
がんの原因は、生活習慣などの環境要因と、生まれつき持っている遺伝子の変化(病的バリアント)による遺伝要因に大別されます。
環境要因には、
- 喫煙・飲酒・食事などの生活習慣
- 細菌やウイルスによる感染
- 環境汚染によって発生した化学物質
- 加齢
などがあげられます。生まれた時には正常だった細胞が、これらの影響で障害され、がんになってしまうことがわかっています。
一方で遺伝要因とは、生まれたときから持っている遺伝子の変化の影響が、がんの発症に強くかかわっていることを指します。
がん全体の割合としては、遺伝要因よりも環境要因のほうが多いといわれています。しかし。がんの種類によっては主な原因が遺伝要因であることがわかっているものもあり、詳しい遺伝子検査をおこなうことで、その後の治療に生かされるケースもあります。
がんと遺伝子の関係
遺伝子の変化ががんの発生につながるのは何故でしょうか。
ここでは、両親ががんの場合に遺伝する確率や、がん遺伝子とがん抑制遺伝子の関係、またそれらの遺伝子の変化によっておこる遺伝性腫瘍について解説します。
がんの遺伝する確率
人間の染色体は、半分は父親から、半分は母親から子どもに引き継がれます。親のどちらかが生まれつき特定のがんになりやすい遺伝子の変化を持っている場合、子どもがその遺伝子の変化を受け継ぐ確率は50%です。
祖父母と孫の関係になると、祖父母のうちのだれかががんになりやすい遺伝子の変化を持っている場合は、孫がその遺伝子の変化を受け継ぐ確率は25%になります。さらに曽祖父母までさかのぼると、確率は12.5%です。
一般的には、自分を中心として3世代または3親等以内の血族の病歴は把握しておくようにしましょう。3親等以内の血族とは、曽祖父母、大おじ、大おば、いとこまでです。病院で問診も、ほとんどがこの範囲の近親者までの病歴を確認しています。
すべてを把握するのは難しいかもしれませんが、遺伝しやすいがんの種類に該当するかどうかだけでも確認しておいた方がいいでしょう。
がん遺伝子とがん抑制遺伝子
がん細胞の増殖は、「がん遺伝子」と呼ばれる遺伝子が活発に働くことで起こります。また、がん細胞の増殖を抑える機能をもつ「がん抑制遺伝子」がうまく働かなくなった場合も、がん細胞の異常増殖を止められなくなってしまいます。
このような遺伝子の機能の変化が繰り返されることで、がんが発生します。
主な遺伝性腫瘍
遺伝しやすいがんには、特定の遺伝子に変化があることが明らかになっています。ここでは、特定の遺伝子の変化によって引き起こされる「遺伝性腫瘍」について解説します。
遺伝性腫瘍ができる場所によって、がんの種類が異なります。
遺伝性乳がん・卵巣がん
変化のある遺伝子:BRCA1、BRCA2(がん抑制遺伝子)
BRCA1、BRCA2という遺伝子に変化がある場合、女性は乳がんや卵巣がんを、男性は男性乳がんや前立腺がんなどを発症しやすく、性別を問わず膵臓がんのリスクも高くなります。
日本人では、約200~500人に1人(0.2~0.5%)がBRCA1、またはBRCA2遺伝子の変化を持っているという報告があります。遺伝性乳がん卵巣がんと診断された方が、乳がんや卵巣がん、膵臓がん、前立腺がんになった場合には、特定の薬の効果が期待でき、的確な治療法の選択が可能となるのです。
近親者にこれらのがんの方が多く、自分もがんになるかもしれないと気になる方は、一度医療機関で相談してみましょう。また、乳がんや卵巣がんと診断され、遺伝性乳がんや卵巣がんとわかった場合は、予防的切除術に保険が適用されることがあります。
ご自身の状況に合わせリスクとベネフィットをよく考えた上で選択するようにしましょう。
リンチ症候群(遺伝性非ポリポーシス性大腸がん)
変化のある遺伝子:MLH1、MSH2、MSH6、PMS2(がん抑制遺伝子)
これら4つの遺伝子のどれかに変化があると、大腸がんや子宮体がんを発症しやすくなり、胃がん、小腸がん、卵巣がん、腎盂・尿管がんなどが発症することもあります。全大腸がんの2~5%程度がリンチ症候群と考えられ、若い年齢で大腸がんを発症したり、近親者に大腸がんの方が多くいる場合はリンチ症候群の可能性も考えて、医療機関で相談してみましょう。
家族性大腸腺腫症
変化のある遺伝子:APC(がん抑制遺伝子)
大腸の中に多数のポリープができ(100個以上)、次第にがん化することにより、大腸がんを発症します。若い年齢(10~20代)でポリープができ始めるため、家族性大腸腺腫症と診断された場合には、定期的に大腸内視鏡検査を受ける必要があります。
また、胃や十二指腸にもポリープが複数できることもあるため、上部消化管内視鏡検査(胃カメラ)も必要に応じて受けた方が良いと考えられています。
遺伝しやすいがんの種類とは?
遺伝性腫瘍には原因となる遺伝子の変化が見られ、それぞれに発現しやすいがんの種類があることがわかっています。
ここでは、遺伝しやすいがんの種類について、がん種ごとに解説していきます。
乳がん
乳がんになる可能性のある主な遺伝性腫瘍には、遺伝性乳がん卵巣がんとリー・フラウメニ症候群があり、乳がんの5~10%は遺伝性であるといわれています。
近親者で、年齢が若いのに乳がんになった方がいたり、乳がんや卵巣がんになった方が複数いたりする場合には、遺伝性の乳がんになりやすい可能性があります。
多くの研究の結果を解析したところ、親、子、姉妹の中に乳がんの方がいる女性は、いない女性に比べて2倍以上乳がんになりやすく、祖母、孫、おば、姪に乳がんの方がいる女性は、いない女性に比べて約1.5倍乳がんになりやすいことがわかってきました。
遺伝子検査を受けて変化があることが分かった場合でも、必ず乳がんを発症するとは限らず、またいつ発症するかもわかりません。ただし可能性はあるため、定期的に検診を受けて予防しておくことが大切になります。
また、万が一片側の乳房が乳がんになったときの遺伝子検査で遺伝性の乳がんだと分かったときには、もう片側も今後乳がんになる可能性があるということになるため、より注意が必要でしょう。
卵巣がん
卵巣がんになりやすい遺伝性腫瘍には、遺伝性乳がん卵巣がんがあります。比較的若い年齢で発症することが多いのが特徴で、自覚症状があまりなく、診断時には進行していることも少なくありません。
一般的に女性が卵巣がんになる確率は1.3%ですが、「BRCA1遺伝子」に変化があると約40%、「BRCA2遺伝子」に変化があると約20%と、かなり高くなります。ただし、薬による治療が奏功する可能性があり、比較的予後が良いといわれています。
自分の病気が遺伝性であると知ることは、心理的負担にもなりますが、より良い治療を選択できるかもしれないため、気になる方は医療機関で相談してみましょう。
大腸がん
大腸がんと関わりのある主な遺伝性腫瘍は、リンチ症候群と家族性大腸腺腫症です。遺伝性大腸がんはすべての大腸がんの5%程度で、近親者に大腸がんが多く発生します。
- 若い年齢(40歳未満)で発症しやすい
- 大腸がんが繰り返しできやすい
- 一度に複数の大腸がんができやすい
- 大腸以外の臓器にもがんができやすい
- 大腸をはじめ胃や小腸に多数のポリープができる
上記の特徴にあてはまる場合は、遺伝性の大腸がんである可能性があります。
大腸がんと診断され、遺伝子検査において遺伝子の変化がわかった場合、大腸切除術を受けたり、大腸内視鏡検査や上部消化管内視鏡検査を定期的に受けたりする必要があるでしょう。
膵臓がん
遺伝性腫瘍の1つである遺伝性乳がん卵巣がんでも、膵臓がんを発症する可能性があります。また遺伝性膵炎といって、遺伝により慢性膵炎が繰り返される病気があります。
近親者に膵炎の発症が多く、若い年齢で発症し、大量飲酒など慢性膵炎の原因が他にない場合などに遺伝性膵炎の可能性が高くなります。遺伝性膵炎から膵癌を発症する割合は、何もない場合と比べて約50~90倍で、日本における調査でも、遺伝性膵炎 82 家系中 14 家系(17%)に膵癌を認めたとの報告があります。
胃がん
遺伝性びまん性胃がんは、原因の1つとして、「CDH1遺伝子」の変化が関係することがわかっています。はっきりとわかるような腫瘤は形成しない代わりに、がん細胞が胃壁に浸潤し粘膜下で増殖するのが特徴です。
胃壁に浸潤するため見つかりにくく、発見されたときには進行しているケースも少なくありません。胃壁に浸潤し進行した状態で発見された場合の5年生存率は20%以下です。
発症時の年齢が若く、近親者にびまん性胃癌を発症した方が多い場合は、遺伝性の可能性があります。定期的な上部消化管内視鏡検査や予防的摘出術などの治療法が選択されます。
遺伝性のがんを調べる方法
がんの遺伝子を調べる検査は、主に以下の3種類があります。
- がん遺伝子検査
- がん遺伝子パネル検査
- 市販のキットを用いた簡易検査
それぞれの検査について、詳しく解説していきます。
がん遺伝子検査
肺がん、大腸がん、乳がんなどの一部のがんでは、医師が必要と判断した場合にがん遺伝子検査をおこなう場合があります。がん遺伝子検査とは、治療に必須な特定の遺伝子(1つまたは少数)のみを調べる検査を指します。
これにより、的確な治療の選択や、経過観察での検査の選択ができるようになります。
がん遺伝子パネル検査
標準治療がない、もしくは治療をおこなったが奏功していない方を対象が対象になることが多い検査です。がん組織や血液を用いて、100種類以上の遺伝子を一度に調べる検査を指します。
この検査の結果、遺伝子の変異が見つかり、治療につながる確率は10~20%といわれています。保険診療で検査できる場合もありますが、検査対象外の場合は自由診療となる可能性があります。
がん治療においては、臓器ごとに薬を選択する方法が主流です。しかし、がんゲノム治療では、がん細胞の遺伝子の変異を調べ、それに合わせた治療をおこなうため、効果的で副作用の少ない治療法を選択できる可能性があります。がん遺伝子パネル検査も用いたがんゲノム治療に、メリットばかり感じるかもしれませんが、検査を通して自分や家族が将来がんになる可能性を知ることになり、心理的不安を抱えてしまう方もいるでしょう。不安な場合は、医療機関で相談して、検査を受けるかどうかの選択をご自身で考えるようにしましょう。
市販のキットを用いた簡易検査
尿や唾液などを用い、体質的にどのがんが発生する確率が高いかを推測します。自分の体質を知り、定期的に検診を受けたり、生活習慣を改善したりするのに役立つ検査です。
がん遺伝子検査・がん遺伝子パネル検査のように対象者が限定されているのもではなく、比較的手軽に受けられます。ただし、対面でのカウンセリングが実施されるか、信頼できる専門家による解析結果なのか、という点に注意する必要があるでしょう。
※遺伝性のがんに関連した遺伝子検査を希望する場合は、遺伝性腫瘍専門医・臨床遺伝専門医・遺伝専門看護師など遺伝の専門家への相談が推奨されています。
まとめ
ここまで、遺伝しやすいがんの種類や検査方法について解説してきました。
がんの発症に関わる遺伝子を受け継いだ場合、特定の種類のがんを発症しやすくなることは事実ですが、遺伝したからといって必ず発症する訳ではありません。
遺伝性のがんを調べる方法は「がん遺伝子検査」「がん遺伝子パネル検査」「市販のキットによる簡易検査」の3種類があります。
それぞれのがん遺伝子検査を通して、がん細胞自体の遺伝子情報を調べるだけでなく、生まれつき持っている遺伝子の変化についても知ることができる可能性があります。
もしがんになりやすいとわかったら、定型的に検診を受け、その他のがん発生のリスク因子を減らした生活習慣へと改善するきっかけとなるでしょう。がんの遺伝性について知ることは不安もありますが、今の自分に何ができるか今一度考えてみることで、がんの発生を予防できるかもしれません。