がんを予防するためには?早期発見の方法についても解説

1981年から現在に至るまで、日本における死因の1位は「がん(悪性腫瘍)」という結果が続いています。約2人のうち1人は、一生に一度はがんを発症するといわれており、両親や祖父祖母など近い親族が罹患したという方も多いことでしょう。
以前は「がん=死」というイメージがありましたが、早期発見・治療をすれば「治る病気」だという印象に変わってきています。これには、診断や治療方法が日々進化していることも大きく関わっていると考えられます。その一方で、がんの予防については議論される機会も少なく、日本においてはあまり認知されていないのが現状です。
本記事では、がんの予防について詳しく解説するとともに、早期発見の方法についても紹介していきます。ぜひ最後までご一読ください。
がんという疾患について

日本におけるがんの生涯累積罹患リスク(生涯のうちにがんだと診断される確率)は、男性で62.1%、女性では48.9%です。(2020年時点)
約2人に1人ががんを発症するというデータの結果から考えると、がんは日本人であれば誰でもかかる可能性のある疾患だということができます。
出典:国立研究開発法人国立がん研究センター がん情報サービス「最新がん統計」
人間の体は、傷ついた遺伝子を修復する働きをもっています。しかし、なんらかの原因で遺伝子を修復できなくなると、遺伝子が傷ついた細胞が増えることによってがんを発症します。
また、一部のがんは細菌やウイルスへの感染が関係していることが明らかになっています。ただし、がんそのものは、くしゃみ・咳などによる飛沫や人との接触によってうつる可能性はありません。
がんを完全に防ぐことは困難ですが、日常生活の見直しや一部の細菌・ウイルスへの適切な対策により、がんに罹患するリスクを軽減できることがわかってきています。
また、がんの罹患者数やがんを原因とする死亡者数が増え続けていることには、日本の人口全体における高齢者の割合の増加、いわゆる「高齢化」が大きく関わっているといわれています。高齢化による影響を除外すると、一定の期間にがんに罹患する人の割合は2010年からほぼ変化がなく、がんを原因とする死亡者数の割合も1990年代のなかばをピークに減少が続いています。
がんもほかの疾患と同様に、診断や治療方法の進歩によって生存率が年々高まる傾向にあります。すべてのがんで寛解(根治)を目指すことは難しいのが事実ですが、寛解がみられない人であっても、治療を続けながら仕事・家事・通学など、それまでの日常生活を続けている人が数多くみられます。
冒頭でも説明したとおり、日本人の死因はがんが依然として1位を続けていますが、「がん=死」という時代は終わりを迎えつつあるのかもしれません。
日本人ががんを発症する原因

2015年のデータによると、生活習慣または感染が原因でがんを発症した人の割合は、男性で43.4%、女性では25.3%にのぼるとされています。
その内訳を上位から見てみると、次のような結果になります。
【男性】 | 【女性】 |
---|---|
喫煙(23.6%) | 感染(14.7%) |
感染(18.1%) | 喫煙(4.0%) |
飲酒(8.3%) | 飲酒(3.5%) |
出典:国立研究開発法人国立がん研究センター がん情報サービス「がんの発生要因」
以上のように、日本におけるがん発症の原因の多くは、生活習慣・感染であることがデータからも見て取れます。
がんは予防できるのか

国立がん研究センターをはじめとする共同研究のグループが、がんの予防に焦点を当てて従来の研究をあらためて調査したところ、たばこ・お酒・食生活・身体活動・体重・感染の6つが、がんの発症を防ぐ重要なポイントであることがわかりました。このリサーチ結果を踏まえて策定したのが、『日本人のためのがん予防法(5+1)』です。
がんを完全に防ぐことはできませんが、ガイドラインの内容にしたがった生活・行動を心がけることにより、がん発症のリスクを軽減させることは可能です。
ガイドラインの詳細は、以下の「がん情報サービス」のサイトでご覧いただけます。
>>国立研究開発法人国立がん研究センター がん情報サービス「科学的根拠に基づくがん予防」
『日本人のためのがん予防法(5+1)』

がんにかかりにくい体をつくるためには、日常生活での行動や習慣を見直して、がんのリスク要因をできる限り排除することが大切です。
ここでは、前項で紹介した『日本人のためのがん予防法(5+1)』について解説していきます。本ガイドラインで挙げているがん予防の6つの要素について、それぞれ詳しくみていきましょう。
禁煙(たばこ)
喫煙する人は、喫煙しない人と比較するとがん発症のリスクが約1.5倍にまで上昇することがわかっています。
肺がんだけではなく、食道がん・膵臓がん・肝細胞がん・胃がん・大腸がん・頭頸部がん・子宮頸がん・膀胱がんなどに関与しているといわれており、急性骨髄性白血病や乳がんを発症するリスクが上昇する恐れがあることも指摘されています。
そのため、がんの発症を予防するには禁煙が必須であるといってよいでしょう。
2019年の「国民健康・栄養調査」によると、20歳以上の日本人の喫煙率は男性で27.1%、女性で7.6%と推測されています。
禁煙することにより、心臓病や脳卒中・呼吸器疾患・糖尿病をはじめとした成人病の発症を防ぐことができるため、特に喫煙率の高い男性においては積極的に取り組むことが推奨されています。しかし、禁煙には強い意思が必要です。自分だけでは禁煙が難しいという人は、禁煙外来を受診するなど、専門家の力を借りることも選択肢のひとつになるでしょう。
また、喫煙者だけではなく、非喫煙者であっても「受動喫煙」には注意が必要です。非喫煙者の人は、気づかぬうちに周囲のたばこの煙を吸ってしまわないよう気をつけましょう。
節酒(お酒)
日本人に対する研究から、1日あたりのアルコール摂取量の平均が純エタノール量換算で23g未満の人は、それ以上のアルコール量を摂取している人と比較したとき、がんの罹患率が低くなることがわかっています。このデータから考えると、日本人の男性ががんを発症する原因のうち約13%は、1日あたり2合以上の飲酒によるものだということができます。
また、1日2合以上の飲酒は、肝細胞がん・食道がん・大腸がん・頭頸部がんに大きく影響を与え、乳がん(閉経前の女性)、胃がん(男性)にも関与していることがわかっています。
飲酒量を減らせば減らすほど、がん発症のリスクは軽減していきます。飲めない人は無理に飲もうとせず、飲酒をする人は純エタノール量換算で1日あたり23gまでに控えるように心がけましょう。
【1日の飲酒量の目安(純エタノール量換算23g)】
- ビール 大瓶(633mL)1本
- 日本酒 1合
- ウイスキー/ブランデー ダブル1杯
- ワイン グラス2杯
- 焼酎/泡盛 1合の2/3(原液)
適正体重の維持(体重)
BMIの値が以下の範囲にあてはまる場合は、がんの死亡リスクが低下することが明らかになっています。
【死亡のリスクが低いとされるBMI値】
- 男性 21.0~26.9
- 女性 21.0~24.9
BMIは肥満の度合いを示す指標で、値が高くなるほど肥満度は「高い」と判断されます。
「(体重kg)/(身長m)²」で簡単に計算することができますので、自分の現在のBMI値を知っておくとよいでしょう。
男性か女性かを問わず、がんやがん以外の疾患による死亡リスクは、太りすぎだけではなく、痩せすぎでも上昇する傾向があります。また、肥満とがん発症の関係には、以下のような特徴がみられます。
【男性】
- 太りすぎ(肥満)の人よりも痩せすぎの人のほうが、がんによる脂肪リスクが高い
- 非喫煙者は、痩せすぎであっても死亡リスクは上昇しない
【女性】
- BMI値30.0~39.9の肥満女性のがん死亡リスクは、BMIが標準値の人より約25%高い
- 閉経後の肥満により、乳がんを発症するリスクが上昇する
これらの結果を踏まえると、男性で21~27、女性で21~25の範囲にBMI値がおさまるよう、日々体重を管理していくのが理想的だといえます。
食事内容・食習慣の見直し(食生活)
「塩分の摂りすぎ」「野菜・果物の不足」「熱すぎる飲み物・食べ物」は、がんを発症する原因になることがわかっています。そのため、毎日の食事や長年続けてきた食習慣を見直すことも重要な対策のひとつです。
減塩
塩分の摂りすぎにより、男性・女性ともに胃がんを発症するリスク上昇することがわかっています。そのため、がんの発症を予防するためには、食事内容を見直して、食塩の摂取量を減らすことが必要です。減塩はがんを防ぐだけではなく、高血圧をはじめに、心臓疾患や脳卒中などのリスク軽減にも寄与するため、積極的に取り組むことをおすすめします。
なお、1日あたりの食塩摂取量は、男性は7.5g未満、女性は6.5g未満にすることが推奨されています。(厚生労働省策定「日本人の食事摂取基準 2020年版」)
野菜・果物を摂取する
毎日の食事のなかで、野菜・果物を必要十分な量摂取することで、食道がんの発症リスクが軽減することがわかっています。また、必要とされる量の野菜や果物を食事から摂取することは、心疾患や脳卒中をはじめとした疾患を防ぐことにもつながるため、不足しないように意識して摂取するように心がけましょう。
【「健康日本21(第二次)」(厚生労働省策定)が推奨する摂取量の目安】
- 野菜 約350g
- 果物 約50g
- 野菜を小鉢5皿分・果物1皿分が目安
熱い飲み物・食べ物は適温まで冷ましてから摂取する
熱すぎるものをそのまま摂取してしまうと、食道がん発症のリスクが上昇することが明らかになっています。そのため、がんを防ぐためには、熱すぎるものは適温になってから摂取することが大切です。
また、熱すぎる飲み物や食べ物が原因となり、口腔内・咽頭・食道の炎症リスクを上昇させることがわかっています。冷まして適温にしてから摂取するよう習慣づけることで、口腔内や咽頭・食道の粘膜を傷つけることを防ぎ、口腔がん・咽頭がんのリスクを下げることにも期待できます。
身体を動かす(運動)
仕事上や運動による身体活動量が多いほど、全てのがんの発症リスクが低くなることが報告されています。特に、男性は大腸がん、女性は乳がんにおいて身体活動量が高い人ほどリスクの低下がみられました。また、身体活動量が多い人は心疾患のリスクも低い傾向にあるため、無理のないレベルで身体を動かす時間を増やしていくことにより、全身の健康にもつながっていくでしょう。
【推奨されている身体活動量(厚生労働省:健康づくりのための身体活動基準2013)】
- 18歳~64歳
歩行またはそれと同等以上の強さの身体活動を1日60分
息がはずみ汗をかくレベルの運動は1週間に60分 - 65歳以上
強度を問わず、身体活動を毎日40分程度
感染症の検査を受ける(感染)
細菌・ウイルスが原因になるがんは以下のとおりです。
細菌・ウイルス | がんの種類 |
---|---|
B型・C型肝炎ウイルス | 肝細胞がん |
ヘリコバクター・ピロリ(ピロリ菌) | 胃がん |
ヒトパピローマウイルス(HPV) | 子宮頸がん |
ヒトT細胞白血病ウイルス1型 (HTLV-1) | 成人T細胞白血病 リンパ腫 |
いずれの細菌・ウイルスも、感染したからといって必ずがんを発症するわけではありません。しかし、感染の状況に応じた対応をとったり、あらかじめ予防ワクチンを受けたりすることでリスクを軽減させることができます。
B型・C型肝炎ウイルス
お住いの地域保健所や医療機関で肝炎ウイルスの検査を受け、感染している場合は専門医に相談しましょう。特に、C型肝炎の場合は積極的に治療を受けることが必要です。
ヘリコバクター・ピロリ(ピロリ菌)
ピロリ菌検査の機会があれば受けるようにしましょう。また、定期的に胃がん検診を受診し、ピロリ菌の除菌については、メリット・デメリットの双方を理解したうえで医師とよく相談してから実施してください。
ヒトパピローマウイルス(HPV)
子宮頸がんの検診を定期的に受診して、対象年齢に該当する人は子宮頸がんワクチンの定期接種を検討しましょう。
「がんを防ぐための新12か条」

前項で紹介した「日本人のためのがん予防法(5+1)」のほかにも、公益財団法人がん研究振興財団では2011年に「がんを防ぐための新12か条」を発表しています。
この「がんを防ぐための新12か条」も日本人対象の疫学調査や、現時点で妥当とされている研究方法で明らかにされたエビデンスを基にまとめられています。「日本人のためのがん予防法(5+1)」とともに、生活習慣を見直すための指標としてぜひ参考にしてください。
- たばこは吸わない
- 他人のたばこの煙を避ける
- お酒はほどほどに
- バランスのとれた食生活を
- 塩辛い食品は控えめに
- 野菜や果物は不足にならないように
- 適度に運動
- 適切な体重維持
- ウイルスや細菌の感染予防と治療
- 定期的ながん検診を
- 身体の異常に気がついたら、すぐに受診を
- 正しいがん情報でがんを知ることから
詳しい内容が記載されたパンフレットは、公益財団法人がん研究振興財団のホームページからダウンロード(PDF)することができます。
>>公益財団法人がん研究振興財団 パンフレット・冊子のページ
がんを早期発見する方法

ここまで、がんを予防するためには何をすればよいのか、おもに生活習慣の見直しや感染によるがん発症リスクを回避する方法について解説してきました。しかし、残念ながらこれらの方法だけではがんを完全に予防することはできません。
現在では、多くのがんは早期発見・治療することにより寛解させることが可能になってきています。ここからは、がんを早期発見する方法について説明していきます。
がん検診を受診する
定期的にがん検診を受診することは、がんの早期発見につながります。現在日本で推奨されている5つのがん検診の対象者・受診の間隔・検査方法は以下のとおりです。
検診の種類 | 対象者 | 受診の間隔 | 検査方法 |
---|---|---|---|
胃がん検診 | 50歳以上 | 2年に1回 | 問診 胃部X線または胃内視鏡検査 |
大腸がん検診 | 40歳以上 | 1年に1回 | 問診 便潜血検査 |
肺がん検診 | 40歳以上 | 1年に1回 | 質問(問診) 胸部X線検査および喀痰細胞診* |
乳がん検診 | 40歳以上 | 2年に1回 | 問診 乳房X線検査(マンモグラフィ) |
子宮頸がん検診 | 20歳以上 | 2年に1回 | 問診・視診 子宮頸部の細胞診および内診 |
*喀痰細胞診は、原則50歳以上で喫煙指数が600以上の人が対象(過去の喫煙者も含む)
がん検診の結果で「異常あり」と判断されたら、医療機関でさらなる精密検査や診断・治療を受けることが重要です。また、「異常なし」であっても、がんを早期のうちに発見するためには必ず定期的にがん検診を受診するようにしましょう。
人間ドックを受診する
人間ドックでは、がん検診の対象となっている5つの臓器はもちろん、それ以外の全身のがんについて調べることが可能です。
人間ドックを提供している医療機関は、PET-CTをはじめとした最新の医療機器を取り揃えていることが多く、より精度の高い検査結果に期待することができます。さらに、がんが発見された場合は、連携する大学病院や専門病院への紹介によりスムーズに診断・治療へと移行することができるのもメリットのひとつです。
また、最近ではがんの種類によっては発症の若年化がみられています。たとえば、乳がんは20代・30代での発症が増加の傾向にあります。そのため、がん検診の対象となる40歳以前に検診を受けはじめることで早期発見・治療の可能性も高くなります。もし、気になる体の部位や懸念している症状がある場合は、検査する臓器や部位を自由に選択することのできる人間ドックのほうがより適しているかもしれません。
遺伝性のがんのリスクを調べる
ほとんどのがんは遺伝することはありません。しかし、生まれつきがんに関与する遺伝子に変化があると、次の世代にその変化が遺伝する(受け継がれる)場合があります。
細胞には「体細胞」と「生殖細胞」の2つがあります。体細胞は骨・筋肉・血液・神経など、体の多くの部分を構成している細胞です。この体細胞に含まれる遺伝子は、変化が生じても次の世代には受け継がれません。
もう一方の生殖細胞は、男性では精子、女性では卵子になる細胞です。そのため、生殖細胞に含まれる遺伝子に変化がある場合、次の世代に受け継がれる(=遺伝する)可能性が考えられます。
遺伝性のがんの原因となる遺伝子としては、乳がんの原因となるBRCA1・BRCA2、家族性大腸腺腫の原因となるAPCなどが知られています。これらの遺伝性のがんを発症した家族がいる場合、発症のリスクを調べる方法としてはがん遺伝子パネル検査・遺伝子学的検査などがあります。
ただし、遺伝子に関する検査の結果は、本人のみならず家族にも影響を与えることがあるため、事前に十分話し合ったうえで受診することが大切です。
身体に異常を感じたら医師に相談する
定期的ながん検診や人間ドックの受診だけではなく、日頃から自分の身体に注意を傾け、異常を感じたら医師に相談することもがんの早期発見・治療には重要なポイントです。
体重減少・咳・血痰・おりものや下血などの自覚症状がある場合は、必ずかかりつけ医や医療機関を受診するようにしましょう。がんではないと考えていても、検査で思いがけない臓器や部位にがんが発見されることも少なくありません。
「これくらいなら大丈夫」と捉えるのではなく、場合によっては「もしかしたら何かの疾患かもしれない」と疑ってみることも必要です。
まとめ

本記事では、がんを予防するためには何をするべきか、「日本人のためのがん予防法(5+1)」をもとに詳しく解説するとともに、がんの早期発見の方法についても紹介してきました。
がんを発症する原因に生活習慣が大きく関わっていることは、近年の研究により科学的に解明されてきています。そのため、がんを予防するためには「たばこ・お酒・食生活・身体活動・体重・感染」について、それぞれ適切な対策をとることが必要です。しかし、残念ながらそれだけでがんを完全に予防することはできません。
現在では、がんも早期発見・治療することにより「治る」病気になってきました。もし、がんを発症したとしても、自分の健康状態に対して常に注意を傾け、定期的にがん検診や人間ドックを受診することで早期発見・治療が可能になるでしょう。
生活習慣の改善によるがん予防や早期発見・治療のためにも、この記事の内容を参考にしていただけると幸いです。
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