中村 清吾
SEIGO NAKAMURA

昭和大学 医学部 乳腺外科 特任教授
昭和大学 臨床ゲノム研究所 所長

個人によって異なる乳がんのリスクに合わせた
オーダーメイドの健診をお勧めします

目次

    乳がんは日本人女性のがんの罹患数第一位。けれども検診の受診率は高くない

    あなたの周りにも乳がんに罹患された方がいらっしゃるかもしれません。乳がんは日本人女性のがんの罹患数の第1位(2019年)で、死亡数は第4位(2021年)です。30年前までは年間発症数は2万人ほどでしたが、2019年には10万人弱にものぼっています。罹患のピークは65〜75歳で、40〜60代にかけて患者数は急増します。

    公的な乳がん検診では、40歳以上の女性を対象に2年に1回の視触診と乳房X線検査(マンモグラフィー)が行われています。そのうち、乳房の乳腺が多く詰まっていて脂肪が少ない高濃度乳房の女性で50歳未満である場合には超音波検査が併用されます。高濃度乳房ではマンモグラフィーでは白く写ってしまい、がんの診断がしにくいためです。特に日本人には、この高濃度乳房の女性が多いとされていますから、超音波検査の併用をお勧めします。

    たとえば、最近導入された乳房用超音波画像診断装置(ABUS)は、仰向けで自動で超音波検査を行う器械で、臨床検査技師のスキルにかかわらず、鮮明な画像を撮影できます。導入している施設はまだ多くありませんが、マンモグラフィーで検出しにくい高濃度乳房の方には特に有効です。

    また、乳房MRI検査もマンモグラフィーよりも高精度の画像で乳がんの発見に役立ちます。欧米では特に遺伝子異常があるとわかっていて、乳がんを発症していない女性の検診に利用されており、私たちも25歳以上の当該の方にはこの検査をお勧めしています。

    ほかには、マンモグラフィーも高濃度乳房かどうかを自動的に判定するソフトを組み込んだ装置もあります。

    このように検査機器は進化していますが、一方で乳がん検診の受診率はあまり高くありません。また、乳がんになるリスクは個人によって異なるため、個人の体質や生活に応じた健康診断や人間ドックが必要と考えています。

    乳がんの5~10%は遺伝性のものである可能性

    数々の研究から、乳がんには遺伝性のものがあることがわかってきました。実際、乳がんの5〜10%は細胞を修復する役割を持つ BRCA1遺伝子やBRCA2遺伝子の異常が関連しており、親から子に伝わって乳がんを発症しやすくします。また、この遺伝子異常は卵巣がんの発症率を高めることもわかっています(遺伝性乳がん卵巣がん=hereditary breast and ovarian cancer:HBOC)。

    BRCA1遺伝子かBRCA2遺伝子のどちらかに異常があると、遺伝子異常のない人に比べて10〜15歳くらい若い年齢で乳がんを発症する、同じ側に複数のがんができる、両側の乳房にがんができるなどのリスクが高まります。

    さらに、この遺伝子異常があると、女性特有のがんにとどまらず、すい臓がんや前立腺がんのリスクを高めることも明らかになってきました。

    遺伝性の乳がんが疑われる場合は遺伝カウンセリングを

    BRCA1遺伝子やBRCA2遺伝子の異常が両親のいずれかに見られると、子どもの性別を問わず2分の1の確率で遺伝します。家族や親族に乳がんや卵巣がん、前立腺がん、すい臓がんを発症している人が複数いる場合には、遺伝子異常がある可能性を疑い、また遺伝子検査を受けるかどうかも含めて、ご家族も一緒に考える必要があり、遺伝カウンセリングを受けていただくのをお勧めします。

    このようなことから、乳がんの早期発見には「遺伝子異常が疑われるならば、血液検査+遺伝カウンセリング」「遺伝子異常があるとわかれば、公的検診が始まる40歳を待たずに20代から自費で乳がんの有無を1年に1回調べる」「高濃度乳房であれば最初から超音波検査を年1回受ける」「それ以外の女性は2年に1回マンモグラフィーで調べる」など、ご自身に合う健康診断、人間ドックを選ぶことが大切です。乳がんのリスクは人によって大きく違うため、ご自身に最適な乳がん検診についてのご相談も受け付けています。

    <連携医師紹介>
    乳がんの予防から治療、経過観察まで、患者さんの生活を考慮し、他科とも連携して診療しています

    鍼灸師の祖父の背中を見て育ち、東洋医学に興味を持ちました

    私が医師になったのは、東京・浅草で明治時代から続く鍼灸院の家に生まれたことが大きいですね。祖父が多くの患者さんの訴えをよく聴き、その症状を和らげることに尽くし、患者さんに感謝されている様子を幼い頃から見てきましたから。

    医学部に進学してからは、東洋医学で体質を示す“症”をわかりやすく表現したくて、創生期にあったパーソナルコンピューターに夢中になりました。コンピューターを用いて人工臓器を作り、移植に役立てたいとも考えていました。

    ただ、人工臓器の開発は当時では早すぎましたね。そして、聖路加国際病院での初期研修で乳がんの治療を学んだのを契機に乳がんを専門に選びました。

    乳がんはがんの中でも遺伝子や遺伝の研究が進んでおり、上記のBRCA遺伝子の異常は1994年と1995年に報告されていました。ところが、日本ではこの遺伝子異常の実態がわからず、私は昭和大学に異動して以降、日本人のデータベースを作り始めました。その後、日本人でも欧米の白人と同じくらいの割合でHBOCが存在すると明らかにして、HBOCの保険診療への道筋をつけることに貢献できたのはうれしかったですね。

    がんは、発症する前に自分のリスクを知って予防や治療に活かす時代へ

    乳がんは人によって発がんのリスクが異なるだけでなく、がん細胞のタイプもさまざまで、がんが見つかった年齢や状態によって治療にバラエティーがあります。また、乳房再建など患者さんのご希望もそれぞれです。乳がんの経過観察は少なくとも10年と他のがんよりも長いこともあって、当院では患者さんの治療後の生活を踏まえた治療選択を支え、長いおつきあいを継続しています。

    遺伝性のがんのリスクがある方には、乳腺外科だけでなく、婦人科や消化器・一般外科の専門医、男性の場合は泌尿器科専門医、遺伝カウンセリングを担当する臨床遺伝医療センターなどと連携し、ご家族でお越しいただいてリスク評価や治療に関する相談をお受けしています。

    私が所長を務める臨床ゲノム研究所では、現在、乳がんを含め、がんのリスクを高める27種類の遺伝子異常をテーマにした国際協同研究を行っています。がんについては、発症する前に、個々人が持って生まれたリスクを知り、予防や治療に活かす時代がもうそこまで来ています。

    PROFILE

    1982年千葉大学医学部卒業後、聖路加国際病院外科で乳がんクリニックを担当、93年同病院情報システム室室長を兼任、1997年に米国M.D. Anderson Cancer Center他にて研修を受ける。帰国後、聖路加国際病院外科副医長等を経て、2005年に聖路加国際病院ブレストセンターの設立に携わり、センター長に就任。2006年 4 月聖路加看護大学臨床教授を兼務。
    2010年に昭和大学医学部外科学講座乳腺外科部門主任教授、昭和大学病院ブレストセンター長、2022年4月より現職。

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