松本 守雄
MORIO MATSUMOTO

慶應義塾大学大学院 整形外科学教室 教授

生活の質を下げる腰痛や肩こり、手足の関節の痛み、
骨粗しょう症は早期発見や早期治療が大切です

目次

    誰にとっても悩ましい腰痛や肩こり、手足の関節の痛み

    2022年の国民生活基礎調査の結果では、病気やケガなどで自覚症状のある人のうち、最も訴えが多いのは男女とも「腰痛」で、第2位は「肩こり」です。そして、女性では第3位、男性では第4位に「手足の関節の痛み」が入っています。つまり、整形外科が扱うこれらの症状は多くの人にとっての悩みごとなのです。特に腰痛は全国民の8割は一生に1回は経験する症状と言われています。

    頭を支える頚椎、体幹を支える腰椎は加齢によって少しずつ変化し、肩こりや腰痛の原因となります。

    男性では、脊柱管狭窄症(せきちゅうかんきょうさくしょう)になる人が増えていて、今後さらに増加すると考えられています。脊柱管狭窄症は背骨と背骨の間にある椎間板という軟骨のクッションや腰椎の変形やずれによって腰椎の後方にある神経を通す管である脊柱管が狭くなり、中を通っている神経が圧迫される病気です。腰痛は一部の方を除いてそれほど強くありませんが、立ったり歩いたりすると太ももやふくらはぎなどに痛みやしびれ、脱力が現れて、歩いては休むという状態を繰り返すことになります(この状態を間欠跛行<かんけつはこう>と呼びます)。進行すると尿が出にくくなったり漏れたりする排尿障害を起こすこともあります。

    女性では、骨の量が減り、骨がもろくなって骨折しやすくなる骨粗しょう症に注意が必要です。閉経後の女性に多いのですが、男性やダイエットをしすぎた若い女性でもリスクの高い人がいます。骨粗しょう症の患者は軽い尻餅をついたり、重いものを持ち上げただけで、あるいは何の原因もなく背骨が骨折することもあります。転倒したときなどに足の付け根の骨である大腿骨頚部骨折を招きます。大腿骨頚部骨折によって歩けなくなると生活に大きな支障が出るだけではなく、命に関わることもあります。

    椎間板ヘルニアは、加齢などにより椎間板が変性し、その中身が後・側方に飛び出して神経を圧迫し、腰痛や下肢の痛み(坐骨神経痛)を引き起こす疾患です。20代から50代の青壮年期の特に男性に起こりやすい傾向があります。

    骨や腰の病気の早期発見には定期的な画像検査が有効

    このような腰に出やすい病気ですが、無症状の場合は治療する必要はありません。ただ、特に骨粗しょう症は自覚症状がないまま進行し、ある日、大腿骨頚部骨折や腰椎の圧迫骨折を起こすことがあるので、健康診断や人間ドックで骨粗しょう症の有無や程度を調べておいていただきたいですね。骨粗しょう症の検査には、手の指のX線検査やかかとの超音波検査もありますが、より精度の高い腰椎X線検査(DEXA法、デキサ法)がお勧めです。検査によって骨量が下がっていることがわかれば、食事療法と運動療法、場合によっては薬物療法で、骨粗しょう症の進行を遅らせたり、改善することができます。

    DEXAは、最初に受けたときの結果がよければ3年に1回くらいでよいと思います。もし骨量が若い方の平均の70%未満といった骨粗しょう症になっている場合には、すぐに薬物による治療を開始し、自覚症状がなくても整形外科で毎年DEXAを受けてください。

    腰の状態を知るために有用なのがMRI検査です。骨だけでなく、椎間板や神経の状態がより正確にわかります。また、腰の周りの筋肉と脂肪の割合も調べられます。長引く腰痛あるいは繰り返す腰痛がある方や足のしびれがある方は腰椎のMRI検査を受けておくと安心です。椎間板が悪い、あるいは腰の周りの筋肉が萎縮しているような場合には、体幹筋のトレーニングなどを行い腰痛発症の予防に努めるのがよいでしょう。

    腰椎の画像検査の結果が気になる、あるいは、何らかの自覚症状がある場合には、連携医療機関である私たちのところに来ていただければ、椎間板の変性、脊柱管の狭窄、筋肉量の低下などをチェックし、生活改善や運動療法のアドバイスをいたします。また、人間ドックの検査項目にない股関節や膝関節などに痛みや違和感を感じていらっしゃる場合もご相談に乗ることができます。

    40歳代でも気をつけたいロコモティブシンドローム

    もう一つ、気をつけていただきたいのがロコモティブシンドローム(運動器症候群、通称ロコモ)です。加齢に伴って筋力が落ち、上記のような骨や関節の病気も重なって歩く、走るなどの移動機能が低下し、要介護になるリスクが高い状態を指します。実は40歳代の2割ほどの方が椅子から片脚立ちできない、つまりロコモの初期であるというデータがあります。放置しておくと、将来的な転倒や歩行機能の低下につながります。ロコモかどうかは片脚立ちや握力、生活動作に関するアンケートのような簡単なチェックが参考になるため、健康診断や人間ドックの項目に入っていれば、ぜひ受けてみてください。

    命に直接かかわらなくても、人生後半の生活の質を大きく左右する

    これまで述べたように、運動器の障害は直接命に関わることはありませんが、生活の質を低下させ、内臓の機能にも悪影響を与え、間接的に生命予後を悪化させる要因となります。ふだんから運動器の状態にも目を向けていただくことが将来のケガや病気を防ぐ一助になります。
    ロコモを含め、加齢が関係する整形外科領域の疾患では予防が今後さらに大切になっていきます。人間ドックなどでスクリーニングをしていただき、進行する前に早めに見つけて、予防に努めるあるいは疾患が進行する前にできるだけ低侵襲の治療をする、そして、しっかりフォローアップすることが、人生後半の生活の質に、大きく影響します。

    整形外科の医療には、人工知能(AI)や遺伝子診断などの新しい技術がどんどん入ってきています。予防や治療もますます進化していくでしょう。その観点からも、運動器の健診の重要性はさらに増していくと考えています。

    <連携医師紹介>
    患者さんのお話を伺うことが信頼関係を築く鍵

    生活の質を改善できる整形外科に魅力を感じました

    私が医師になったのは小学生になったときに母に薦められて読んだ野口英世の伝記などで、漠然と医学や研究に興味を持ったのが最初のきっかけです。中学校や高校では周囲に医学部に進学する先輩が多かったことでだんだん感化され、自分も医師になろうと決めました。

    医学部卒業時に専門診療科を選ぶのですが、手術で患者さんに貢献できる外科系にしようと考えていました。整形外科に決めたきっかけは、高校・大学の先輩でもある整形外科医の、「命にかかわる手術を担当する一般外科はもちろん重要だけれども、生活の質をよくする整形外科の仕事も負けず劣らず大事で、やり甲斐がある」という言葉です。実際に整形外科医になってみて、例えば、昨日まで痛みに苦しんでいた人の痛みが手術後に緩和される、歩けなかった人が歩けるようになるというように、患者さんの生活の質を上げることに直接貢献できることを実感しました。私は脊椎を専門にしています。頚椎や腰椎といった人体の要の骨や神経の細かい手術を担当しているととても緊張しますが、術後に患者さんの痛みが消えたり生活の不便がなくなって喜ばれる姿をみると、私自身も本当にうれしく思います。

    患者さんのお話をしっかり聞き、最適な治療を提案します

    整形外科は患者さんの生活の質をよくする診療科ですから、日頃の診療では、患者さんが何を望んでらっしゃるかをしっかりと伺って、最適な治療を提供することを心がけています。例えば、同じ椎間板ヘルニアの患者さんでも、早く治したいと手術を望む方、時間がかかっても手術は避けてゆっくり治したい方、というふうに患者さんやご家族の希望やバックグラウンドはまちまちです。治療に携わった患者さんのアフターケアでもお話をきちんと伺います。患者さん、さらには紹介元の医師や医療機関との信頼関係はそこで醸成されると感じています。

    PROFILE

    1986年慶應義塾大学医学部卒業、医学部研修医、助手を経て、1998年から1年間、米国ALBANY医科大学留学、2003年慶應義塾大学医学部専任講師(整形外科学)、2008年 慶應義塾大学医学部准教授(整形外科学)、2015年慶應義塾大学医学部教授・教室主任(整形外科学)。2017年慶應義塾大学病院・副病院長、2021年から同病院長。2008年第31回Cervical Spine Research Society (Clinical Award)など受賞歴多数。側弯症や後縦靱帯骨化症の疾患感受性遺伝子の同定と新規治療法の開発に関する全国の医療・研究機関との共同研究を率いている。

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